2013年02月

Untergehen


― 彼はみずからこのことがわかっていたのであろうか、あらゆる自己欺瞞者のうちの最も賢明なこの者は?彼の死への気力という知恵のうちで、彼は最後にこのことをおのれに言ったのであろうか?・・・ソクラテスは死ぬことを欲していた、― 彼に毒杯をあたえたのは、アテナイではなく、彼自身であったのであり、彼はアテナイが毒杯をあたえざるをえないようにさせたのである・・・「ソクラテスは医者ではない」と、彼は声をひそめておのれに言った、「死だけがこの場合医者なのだ・・・ソクラテス自身は長いこと病気であったにすぎない・・・」(原佑訳)
(Nietzsche,1889,p.37)
  Nietzsche, F.W.(1889).Götzendämmerung,


 新古典主義の巨匠ジャック=ルイ・ダヴィッドによる古代的主題の代表的作例のひとつ『ソクラテスの死』。当時の美術愛好家トリュデーヌ・ド・ラ・サブリエールの依頼により1787年に制作され、同年のサロン出品時には大きな反響を呼んだ本作は、古代ギリシアにおける最も著名な哲学者のひとり≪ソクラテス≫が異神信仰を広め人々を堕落させたとの告発により、自身で弁明を試みるものの有罪は覆らず服毒自殺を命じられ、最後には毒人参の杯に口をつけ自ら命を絶ったとされる、弟子プラトンが綴った対話集などに記される有名な逸話≪ソクラテスの死≫を主題とした作品である。画面中央には弟子や牢番などソクラテスの支持者に囲まれながら魂の不滅についての演説を終え、今まさに毒杯を手にせんとするソクラテスが配されており、その天を指差す姿態は、宗教画における救世主の到来と悔悛を促す姿を容易に連想させる(※例:レオナルド・ダ・ヴィンチ作『洗礼者聖ヨハネ』)。また画面左側には目頭を押さえ悔し涙を隠しつつソクラテスへ毒杯を手渡す牢番と、ソクラテスに背を向け瞑想するプラトンが前景に配され、後景にはソクラテス自身が送り出したとされる縁者が部屋を出てゆく姿が描き込まれている。また画面右側には死を目の前にして冷静なソクラテスとは対照的に感情のままに師との別れを悲しむクリトンなど弟子らの姿が配されている。本作の主題選定に関しては様々に意見が出されているも、現在では当時の指導者らが犯していた不正に対する批判的精神が込められていると解釈される傾向にある。また逃亡し生き長らえるよりも、理想と信念のための崇高な死を選択したソクラテスの姿には、後のフランス古典主義における英雄的表現への展開の側面を見出すことができる。 
 


Σωκράτης

Mort de Socrate)1787年
129.5×196.2cm | 油彩・画布 | メトロポリタン美術館
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